近代建築の巨匠ル・コルビジェがデザインした家具は、今なお世界中で愛され続けています。なかでも「自由に動く背を持つ椅子」として知られるLC1スリングチェアは、95年以上前のデザインとは思えないほど洗練された座り心地と美しい造形が特徴です。
しかし、購入を検討する際には、実際の座り心地やメンテナンス方法、正規品とリプロダクト製品の違いなど、多くの疑問が浮かぶでしょう。
本記事では、LC1スリングチェアの座り心地や正しい座り方、購入前に知っておくべきポイントをお伝えします。
LC1スリングチェアとは?

LC1スリングチェアは、1928年にル・コルビジェ、ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンの三人のデザイナーによって設計されたモダニズムの傑作です。「LC」はル・コルビジェの頭文字に由来し、「1」はシリーズの最初の製品を意味しています。
最大の特徴は、フレームから一本の軸で支えられたシート構造にあります。背もたれが固定されておらず、座った人の姿勢や動きに応じて自由に角度が変わる設計になっているため、「スリング」(赤ちゃんを抱く際に使用する布)の名前が付けられました。フレームはスチールパイプで製造され、座面と背もたれは高級素材の仔牛毛皮(ハラコ)または本革で張られています。
人間工学に基づいて設計されたこの椅子は、20世紀を代表するデザイン家具として、ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ世界の美術館に収蔵されています。1964年からはカッシーナ(Cassina)社により正規品が復刻され、現在も製造されています。
LC1スリングチェアの座り心地は?
LC1スリングチェアの座り心地については、多くのユーザーから高い評価を受けています。その理由は、計算された構造と素材の質感にあります。
座面には複数のスプリングが取り付けられ、身体をしっかり支えながらも適度な沈み込みが実現されています。アームのレザーベルトが生み出すテンション感も、質の高い座り心地を構成する重要な要素です。座り方によって背もたれの角度が自由に変わることで、短時間の読書から長時間のリラックスまで、様々な姿勢に対応できる柔軟性を備えています。
ただし、設計当初の目的がモダニズムの美学を追求することにあるため、一般的なラウンジチェアやリクライニングチェアのような深い沈み込みや包み込み感は期待しない方が良いでしょう。むしろ、洗練された肌触りと、身体が自然と正しい姿勢に導かれる心地よさが、この椅子の最大の魅力です。
ユーザーのレビューと体験談
実際の使用者からは、「初めてのハラコタイプのチェアだが、大きさも肌触りも座り心地も全部満足」「足のがたつきもなく、部屋の雰囲気が良くなった」といった肯定的な評価が寄せられています。
背もたれが自由に動くため、「背中にフィットして座り心地が良い」と述べるユーザーも多く、この特徴が実際の使用に際して大きなメリットになることが分かります。
一方で、長時間座り続けることを想定した椅子ではないという点を理解した上で購入する必要があります。オフィスのロビーやエントランス、またはリビングのアクセントとして配置されることが多いのは、こうした特性を反映しています。
LC1スリングチェアの正しい座り方
LC1スリングチェアの座り心地を最大限に引き出すには、正しい座り方を理解することが重要です。
まず、椅子の奥行きが浅めに設計されていることを念頭に置いてください。座る際は、腰をしっかり奥に入れ、背中全体がシートに接するようにします。背もたれを自分の好みの角度に調整するために、背中をシートに預けてから、体の重みを活かして背もたれを動かします。無理に力を入れて動かすのではなく、自然な動きに任せることがポイントです。
肘掛けは厚革を掛けただけのシンプルな構造になっているため、手全体を乗せるというより、腕の側面を軽く支える程度の使い方が想定されています。この椅子は短時間のリラックスやオブジェとしての役割を主眼とした設計であるため、長時間の作業用チェアとしての使用は避けるべきです。
背もたれが動く特性を活かして、読書をする時は角度を立てぎみに、寝転びたい時は倒しぎみにするなど、その時々の目的に応じて調整することで、最高の座り心地が実現できます。
LC1スリングチェアがおすすめな人
LC1スリングチェアが向いている人の特徴について説明します。
その①:デザイン性を重視する人
モダニズムの美学を象徴するこの椅子は、インテリアのステートメントピースとして機能します。ミニマリストなデザインの部屋やモダンなオフィス環境に置くと、空間全体の格調が高まります。素材の選択(ポニースキンや本革の色選び)も豊富なため、既存のインテリアに合わせたコーディネートが可能です。
その②:短時間のリラックスを重視する人
読書やティータイム、来客時のおもてなしなど、短時間から中程度の時間座ることが主な用途であれば、この椅子は最適な選択肢です。背もたれが自由に動くため、その都度最適な姿勢を作ることができます。
その③:限られたスペースを活用したい人
コンパクトなサイズながら、存在感のある椅子を求めている人に適しています。ワンルームマンションやコンパクトな書斎など、面積に制限のある環境でも、空間を有効活用できます。
LC1スリングチェアがおすすめできない人
一方で、この椅子が向かない人の特徴も明確にあります。
その①:長時間座り続ける必要がある人
デスクワークやゲーミングなど、長時間座った状態を保つ必要がある場合には向きません。設計の性質上、腰や背中への長時間のサポートを想定していないため、作業用チェアとしては機能しません。
その②:深い沈み込みや包み込み感を求める人
ソファやラウンジチェアのようなリラックス感を期待する人には合致しません。LC1の座り心地は「支える」ことに重点を置いており、「包む」ことではありません。
その③:メンテナンスを極力避けたい人
本革やハラコ素材は定期的なお手入れが必要です。年数が経つと革が経年劣化し、修理費用がかかることも想定する必要があります。布張りの家具よりも手間と費用がかかる傾向があります。
LC1スリングチェアのメンテナンス方法
長く愛用するには、適切なメンテナンスが不可欠です。
その①:定期的なクリーニング
月に一度程度、柔らかい乾いた布で全体を拭くことで、ホコリや汚れの蓄積を防ぎます。本革やハラコは天然素材であるため、直射日光が当たる場所での使用は避けるべきです。紫外線による色褪せや乾燥の原因となります。
その②:革のコンディショニング
半年に一度程度、革専用のクリーニング剤やオイルを用いたメンテナンスを行うことで、革の潤いを保ち、劣化を遅延させることができます。人体の油分が革に浸透すると、シミや黒ずみの原因となるため、早期の対処が重要です。
その③:破れやダメージへの対応
軽微な傷や擦り切れの場合は、専門の革製品修理業者による補修が可能です。座面や背もたれの革張り替えが必要になった場合、修理費用は15,000円から45,000円程度が目安です。フレームのきしみが生じた場合は、スプリングやバネの調整が必要となることもあります。
LC1スリングチェア購入のポイントと注意点
購入を決める前に、確認すべきポイントがあります。
その①:正規品とリプロダクト製品の違いを理解する
カッシーナ社製の正規品は、価格が660,000円から781,000円程度で、フレームの溶接精度や素材の質に定評があります。一方、リプロダクト製品はコストを抑えながらもデザインの本質を保っており、75,000円から150,000円程度で購入できるものもあります。
正規品は後ろのパイプに製造番号やデザイナーのサイン刻印がされており、これが真正性の証となります。リプロダクト製品でも、信頼できるメーカーが製造したものであれば、基本的な機能性は損なわれていません。ただし、素材(ハラコなど)の等級や、ステンレスフレームの仕上げ精度に差が生じることがあります。
その②:納期と配送上の注意
正規品は受注生産品であることがほとんどで、納期が4ヶ月程度かかる場合があります。購入前に必ず納期を確認し、長期の納期に対応できるか検討する必要があります。また、配送時に落下させるなどのダメージがないよう、信頼できる配送業者を選定することが重要です。
その③:配置場所と足のアジャスター調整
納品後、床面への設置時にアジャスター付き脚の高さを調整することで、ガタつきをなくすことができます。カーペットやフローリング、畳など、床の種類によって調整が必要になる場合があります。落下段差のある玄関やスロープ近くは避け、安定した平坦な場所に配置することをお勧めします。
まとめ
LC1スリングチェアは、単なる座具ではなく、美しさと機能性を両立させた20世紀の傑作家具です。座り心地の良さ、デザイン性、そしてメンテナンスの手間のバランスを理解した上で購入することが成功の鍵となります。
短時間のリラックスやインテリアのアクセントとして、この椅子の本来の価値を活かせる環境での使用であれば、その投資は十分に価値があります。正規品とリプロダクト製品のどちらを選ぶにせよ、信頼できる販売業者から購入し、納期やメンテナンス体制を事前に確認することで、長く愛用できるパートナーアイテムとなるでしょう。モダンなインテリアを追求する人であれば、検討する価値のある名品です。