Yチェア(CH24)は、デンマークの家具デザイナー、ハンス J. ウェグナーによる傑作であり、時代や国境を越えて長く愛され続けています。
その最大の魅力は、曲線的な美しさや座り心地はもちろん、100を超える緻密な製造工程を、今なお職人の手仕事が支えている点です。
本記事では、Yチェアが世界的に高く評価される「理由」と「裏付け」、そして納得のいく具体的な工程について詳しくご紹介します。
Yチェアの魅力は職人の手作業に集約される
Yチェアの特徴的なデザインと耐久性、快適な座り心地は、機械加工に加え、数十年の経験を持つ熟練の職人たちの“手”によって生み出されています。Yチェアに多くのファンがいる理由は、流れ作業ではなく、一脚ごとに魂を込めて仕上げるプロセスにあるのです。
100以上の工程と専任ハンドクラフトの存在
Yチェアの製造は、1脚あたり14の木製パーツと約120~150mものペーパーコード(紙紐)で組み立てられ、安全性と耐久性を確保するために100を超える工程を経ています。その中でも、本体パーツの曲木加工や座面編みなどのコアな工程は自動化せず専任の職人が担います。
これから3つの理由を説明します。
1-1. 曲木が生み出す美しいシルエット
Yチェアの最大の特徴は、アームと背もたれが一体化した美しい曲線です。このパーツは、厚みや木目など最適な無垢材を確保し、蒸気で加熱することで柔軟性を与えた後、型にあてて曲げる“曲木”の技術によって生まれます。職人は温度や湿度など細部に目を配りながら、一つ一つ手で成型し、耐久性と美観が両立するよう細やかに調整します。
1-2. Y字型背もたれの成形と接合
Yチェア最大のシグネチャーパーツである背もたれの「Y字型部分」は、複数の薄板を熱と圧力で貼り合わせ曲面を作り、その後さらに手作業でひねりを加えて三次元的な形状を生み出します。この工程も大量生産技術だけでは再現できず、熟練した感覚と手技で仕上げます。さらに、アームとの接合部も微細な違いを調整しながらピタリとはめ込み、しっかりとした耐久性を実現します。
1-3. ペーパーコード座面の手編み
座面は耐久性と座り心地を両立する「ペーパーコード」を約1時間、職人が手で編み上げます。コードは針葉樹の長繊維でつくられ、ワックスで撥水性もプラスされた特注素材です。Yチェアの座面はこの工程が要とも言えるほど“手作業”にこだわっており、均一なテンション・パターンを保ちながら、非常に美しい網目に仕上げます。
専門家やユーザーの実証データ
実際にYチェアの製造を担うカール・ハンセン&サンの現場では、多くのパートが手仕事にこだわられていることが公開されています。特に座面編みは、1脚あたり120~150mものペーパーコードを用い、熟練の職人でも約1時間かかります。機械化できる部分があっても、最終的な質を決めるのはやはり人の手なのです。強度テストも徹底されており、通常5万回の耐久試験(後ろ脚・背もたれの揺らし動作など)を25万回クリアする設計がなされています。
Yチェア製作の全プロセスとポイント
Yチェア製造の現場では、まず原木を厳選し、工程ごとに最適なパーツを取る“木取り”から始まります。アーム・背もたれ部分は曲木工程、Y字背パーツ・脚・貫などもそれぞれ無駄なく成形・削り出されます。その後、各接合部を伝統的な木工技法(胴付きホゾなど)で固定し、高い耐久性と美観を両立させています。
座面編みの仕上げでは、座枠に等間隔に釘を打ちコードの揺れやねじれを避けながら、絶妙なテンションで手編みしていきます。座面の網目は3層からなり、中央に向かって立体的な形状を作ることでクッション性と安定感を実現します。また、最終工程の仕上げでは、細かな傷や粗を目で見て確認しながら手で研磨したり、指定のオイルやソープ仕上げが施されるなど、すみずみまで妥協のない工程が続きます。
職人手仕事の本質
伝統的な手仕事が、チェアの耐久性と心地よさを裏付けています。職人の熟練技や素材選びのこだわりは、Yチェアをただの工業製品では終わらせません。実際、多くの口コミやユーザー体験でも、10年・20年と使い込むほど木部や座面が身体になじみ、唯一無二の“自分だけの椅子”へと成長する事例が多く見られます。
時代を超えて愛される「デザイン+ものづくり」
Yチェアは1950年の誕生以来、デザイン界・インテリア業界をリードし、家庭やオフィス、パブリックスペースなど様々な場所で使用されています。シンプルでありながら流れるような曲線美、天然木ならではの温もり、そして世代を超えてリペアしながら永年愛用できる構造。その本質には、“人の手仕事を大切にする哲学”が脈々と受け継がれていると言えます。
Yチェアは職人技術の象徴
Yチェアの本当の価値は、単なる家具にとどまらずデザインと職人技術、そしてサステナブルな理念までも融合している点にあります。工業製品でありながら手工芸の温かみを残す椅子—それこそが、世界中で長く愛され、使い込んだ後こそ美しく輝きを増すYチェアの核です。職人による100を超える工程が、まさに未来のアンティークとなる一脚を生み出します。