木材の表面に現れる美しい模様を表現する際に「木目」「木理」「杢」という言葉が使われますが、これらの意味や違いを正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。これらの用語は、木工業界や建築業界だけでなく、インテリアや家具選びにおいても重要な知識となります。
本記事では、木目・木理・杢の基本的な定義から、それぞれの詳細な種類まで、専門的な知識を分かりやすく解説いたします。木材の美しさを深く理解し、適切な木材選びに活用していただけるよう、包括的な情報をお届けします。
木目・木理・杢の違いとは?
木材の表面に現れる模様を表現する用語として「木目」「木理」「杢」という言葉がありますが、これらは似ているようで異なる概念を指しています。それぞれの違いを明確に理解することで、木材の特性をより深く把握できるでしょう。
木目(もくめ)
木目とは、樹木の年輪によって形成される模様のことです。木材を製材したときに現れる年輪の模様を指し、原木の切り口(断面)に見える円形状の年輪パターンを材面に表したものです。具体的には、春ごろの成長が早い部分(早材・春材)と、成長がゆっくりな部分(晩材・夏材)の違いによって生まれる縞々模様が、面で切断することによって様々な木目模様として現れます。
木理(もくり)
木理は、木材を構成する繊維方向の変化によって現れる模様を指します。木の細胞繊維は通常、幹の軸方向と平行に細長く成長しますが、複雑に入り組んだものや異なる方向に成長したものもあります。繊維方向が異なると光を反射する程度が変わるため、平滑な面に仕上げても「しましま」や「うにゃうにゃ」な模様が見えたり、光を当てる角度を変えると模様が動いて見えることがあります。
杢(もく)
杢は、木目や木理の中でも特に装飾価値が高く、希少で美しい模様を指します。原木の異常成長などで生じた局部的なねじれや湾曲のある箇所、または瘤の部分などを切り出した際に稀に現れる複雑な模様のことで、数多くの原木の中から数パーセントしか取れない貴重なものです。杢が現れた板は希少価値が高く、価格も高くなります。
木理には通直木理(繊維が幹の軸方向と平行)と交走木理(繊維方向が複雑)があり、交走木理はさらに「らせん木理」「交錯木理」「波状木理」「斜走木理」などに細分化されます。これらの木理の違いによって、材面に様々な表情が生まれ、それが杢として珍重される場合があるのです。
木目の種類
木目は木材の製材方法によって大きく2つの基本的なタイプに分類されます。これらの木目は、丸太をどの方向から切断するかによって決まり、それぞれ異なる特徴と美しさを持っています。
柾目(まさめ)
柾目は、丸太を中心から外側に向かって放射状に切り分けることで得られる木目です。バームクーヘンを縦に等分する断面をイメージするとわかりやすく、真っ直ぐで直線的な木目模様が特徴です。年輪に対して垂直方向にのこぎりを入れて、丸太の中心付近を切り出すことで現れる縦じま模様の木目で、節がなく美しく整った木目は非常に魅力的です。
柾目はさらに細かく分類され、一般的な柾目模様を「並柾目」、模様が細く密になっているものを「糸柾目」、逆に模様が粗いものを「荒柾目」と呼びます。柾目は希少性が高く、1本の丸太から取れる量が板目よりも少ないため価格が高くなりがちですが、均一な木目は美しく、変形のリスクも低いという特徴があります。
板目(いため)
板目は、年輪に対して水平方向にのこぎりを入れ、丸太の中心からずれた部分を切り出すことで現れる木目です。山のようなタケノコの断面のような木目が特徴で、曲線混じりの木目模様を持ちます。丸太の端から端まで効率的に製材でき、価格が抑えられるのが大きなメリットです。
板目の中でも特徴的なものとして「中板目」があります。これは木材の中央に板目の模様、両端に柾目の模様が入ったもので、中板目の中でも樹心から近いところを木取りしたもので、板目部分が細く縦に通ったものを「中杢(なかもく)」といい、希少価値が高いことから高級部材として扱われます。
また、板目方向と柾目方向の中間的な模様が出るものを「流れ杢」といい、模様が斜めに流れているのが特徴です。さらに、丸太の中心からややずれた板目と柾目の間で切り出すと「追柾目(おいまさめ)」と名称が変わります。
木理の種類
木理は繊維方向の配列パターンによって大きく通直木理と交走木理に分類されます。これらの木理の違いは、木材の加工性や強度、そして美観に大きな影響を与える重要な要素です。
通直木理(つうちょくもくり)
通直木理は、木材の繊維が樹幹の軸方向と平行に真っ直ぐに走っている状態を指します。目が通っており、加工上も強度的にも良材とされ、全ての細胞が空に向かって真っすぐに成長したことで生まれた木理といえます。ホワイトオークやブラックウォルナットなどは、木理が通直であることが好まれます。
交走木理(こうそうもくり)
交走木理は、斜走木理、らせん木理、交錯木理、波状木理の総称で、繊維方向が複雑に変化している状態を指します。これらは以下のように詳細に分類されます。
らせん木理(らせんもくり)・旋回木理(せんかいもくり)
樹幹または枝で軸方向と繊維方向が一致せず、繊維傾斜が存在し、軸方向に対してらせん状を呈する木理です。繊維が幹に対して螺旋状に走り、捩れており、逆目の原因でもあり製材では目切れとして現れます。
交錯木理(こうさくもくり)
樹幹内放射方向の位置が変わると繊維傾斜の方向が交互に反対になることを繰り返す木理で、いくつかの年輪層とその隣の年輪層とが繊維の方向を違え、螺旋状に走ります。ラワン類など熱帯産によく見られる特徴的な木理です。
波状木理(はじょうもくり)
樹幹内軸方向の位置が変わると繊維傾斜の方向が交互に反対になり、縦断面で波状を呈する木理です。繊維の配列が幹軸に対して波行しており、柾目面で観察できます。
斜走木理(しゃそうもくり)
目が通っておらず、繊維が樹幹の軸に対して平行していない状態で、目切れとも呼ばれます。製材の軸方向に対して繊維方向が傾いていることで、木理による模様(木目)が製材の軸方向に連続せずに切れたように見えます。
杢の種類
杢は希少性と装飾価値の高さから珍重される木材の模様で、その種類は非常に多岐にわたります。形成要因や模様の特徴によって様々な呼び名が付けられており、同じ杢でも見る人や部位によって呼称が変わることもあります。
筍杢(たけのこもく)・笹杢(ささもく)
年輪による杢として代表的。笹杢は樹齢200年以上のスギの老木や大径木に稀に見られる細かく揺れている年輪模様で、笹の葉のようなギザギザ模様が特徴です。
縮み杢(ちぢみもく)・リップルマーク・カーリー杢
木目が縮んで波上になり、皺が寄ったような杢。トチやカエデ、ケヤキ、クス、タモ、マホガニーなどに発生しやすい杢目です。
虎斑(とらふ)
虎の斑紋のように見える杢目で、ナラ・カシ・ブナなどに現れます。柾目を横切るような帯状の模様で、他の部分とは異なる光沢をもち、虎の毛のように輝いているのが特徴で、英語では「シルバーグレイン」と呼ばれます。
リボン杢
交差状木理によって形成される杢で、マホガニーやサペリ材に現れることがあります。
孔雀杢(くじゃくもく)・縞杢(しまもく)・スポルテッド杢・ブルーステイン
色の変化や菌類の影響で生まれる杢です。
瘤杢(こぶもく)
木のコブのようなところの断面に見られる同心円形の模様で、玉杢(たまもく)は大小の丸い玉が散りばめられたような模様の杢、泡杢(あわもく)は年輪の中に気泡が入ったように見える丸い模様です。
鳥眼杢(ちょうがんもく)・バーズアイ
小鳥の目のような小さな円形の斑点が、板面上にたくさん散らばって現れる杢で、主にハードメープルに多く見られます。
その他
葡萄杢、如鱗杢、人面杢、縄目杢、糠目杢、風流杢など、見た目や形状から名付けられた多様な杢があります。
まとめ
木目・木理・杢は、それぞれ異なる要因によって形成される木材の美しい表情を表現する専門用語です。木目は年輪によって作られる模様、木理は繊維方向の配列による特徴、そして杢は稀に現れる装飾価値の高い希少な模様を指しています。
木目には基本的に柾目と板目があり、それぞれ異なる美しさと機能性を持ちます。柾目は希少性が高く美しい直線的な模様が特徴で、板目は自然な曲線美と実用性を兼ね備えています。
木理は通直木理と交走木理に大別され、繊維方向の違いによって材の加工性や美観に大きな影響を与えます。
杢については、縮み杢、鳥眼杢、玉杢、虎斑など、数十種類もの多様な種類が存在し、それぞれが独特の美しさを持つ貴重な存在です。これらの杢は原木の中から数パーセントしか取れない希少なもので、家具や建築材料として高い価値を持ちます。
木材を選ぶ際は、これらの専門知識を活用することで、用途や好みに応じた最適な材料選択が可能となります。木目・木理・杢の違いを理解することは、木材の真の美しさを見極め、長く愛用できる製品を手に入れるための重要な知識といえるでしょう。木材が持つ天然の美しさと機能性を最大限に活かすためにも、これらの基本的な知識を身につけることをお勧めします。