1925年にドイツの造形学校バウハウスで誕生したワシリーチェアは、世界で初めてスチールパイプを使用した革新的な椅子として知られています。
一見すると硬そうに見える金属フレームと張り革のシンプルな組み合わせですが、実際に座ると「宙に浮いているような快適さ」が得られると多くのユーザーから高い評価を受けています。
約100年の歴史を持つこの名作チェアは、現在も世界中のインテリア愛好家から愛され続けています。
本記事では、ワシリーチェアの座り心地が快適な理由を徹底解説し、正しい座り方から購入時のポイント、メンテナンス方法まで詳しくご紹介します。
ワシリーチェアとは?

ワシリーチェアは、1925年にマルセル・ブロイヤーが23歳のときにデザインした歴史的名作です。当時バウハウスの家具工房で指導をしていたブロイヤーは、愛用していた自転車のハンドルやフレームからヒントを得て、スチールパイプを曲げて家具を作れないかという着想を得ました。
当初は「クラブチェアB3」という名称で製作されましたが、バウハウスで同僚として教鞭をとっていた抽象画家ワシリー・カンディンスキーがこのデザインを絶賛したことから、彼の名前を取って「ワシリーチェア」と命名されました。1960年頃にブロイヤーがイタリアのデザイン会社ガヴィーナに家具コレクションの権利を売却した際、このエピソードが決め手となり正式名称となったといわれています。
当時の家具といえば重厚な木製製品が一般的であり、工業用素材だったスチールパイプを家具に使うという発想は画期的かつ斬新なものでした。この革新的なデザインは家具デザイン界に大きな衝撃を与え、その後ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエなどの世界的巨匠たちもスチールパイプを使い始めました。現在は米国の高級家具ブランドKnoll(ノル)が製造販売を手がけており、正規品の価格は約57万円と高額ながら、現代のインテリアシーンでも高い人気を誇っています。
ワシリーチェアの座り心地の理由
ワシリーチェアの座り心地が快適だと評価される理由は、主に3つの要素から成り立っています。
その① レザーの弾性による包み込まれるような感覚
ワシリーチェアの最大の特徴は、レザーの弾性を活かした独特の座り心地です。座面や背もたれ、肘掛けに張られた革は、体重をかけると適度にたわんで体の形に沿い、まるでハンモックで宙に浮いているような不思議な感覚を生み出します。
緊張感のあるデザインと座ったときの心地よさのギャップが大きいのもワシリーチェアの特徴です。レザーの弾性によって座面や背もたれが体にフィットし、包み込まれるような掛け心地を実現しています。使い込むほどにレザーが座る人の形に合わせて馴染み、エッジが擦れて味わいが増すエイジングも楽しめる一脚です。
その② スチールパイプフレームの精密な設計
ワシリーチェアのフレームは、曲げ加工を施したスチールパイプをボルトで接合して形成されています。自転車の製法からヒントを得たといわれるこの構造は、シンプルな形の中に耐久性と美しさを併せ持つための精密な技術が随所に施されています。
金属パイプでできているワシリーチェアは一見華奢で不安定に見えますが、計算された作りにより座り心地は抜群です。座るとしっかりと身体を支えてくれ、リラックスして座っていただくことのできる心地良さがあります。
その③ 線と面だけで構成されたシンプルな構造
ワシリーチェアは、スチールパイプと張地のみで作られた世界初の構造を持っています。曲げ加工したスチールパイプのフレームに革を張るだけといった、線と面だけで構成されたシンプルかつ無駄のないデザインが特徴です。
このミニマルな設計により、体重がかかる部分に硬い物質が当たるという感覚がなく、自然と腹の底から「ふうっ」と空気が漏れ出てしまうような、うっとりとする着座体験が得られます。背もたれにこう当たっているという感覚がなく、座った瞬間からリラックスできる設計となっています。
ユーザーのレビューと体験談
実際にワシリーチェアを使用しているユーザーからは、高い評価の声が多く聞かれます。「座り心地も最高で、ずっと憧れていた椅子」「かなり長い時間座っていても結構快適で、キッチンの椅子よりずっと良い」といった声があります。
一方で、「背もたれの角度や座面の設計から、リラックス向けであって長時間のデスクワークには向かない」という意見もあります。また、座面が低めでラウンジチェアとしての性格が強いため、読書やリラックスタイムに最適という評価が多く見られます。インテリアとしての存在感も抜群で、1脚でも十分な存在感を放つという声も多いです。
ワシリーチェアの正しい座り方
ワシリーチェアは、一般的なデスクチェアとは異なるラウンジチェアです。正しい座り方を理解することで、より快適に使用できます。
まず、座面に深く腰掛けることが基本です。お尻を背もたれに近づけるように深く座ることで、骨盤が安定し上半身の体重を支えやすくなります。ワシリーチェアの場合、レザーの弾性を活かすためにも、体重をしっかりと預けるように座ることがポイントです。
次に、骨盤を立てた状態を意識することが重要です。骨盤を左右水平に保ち、背骨のS字カーブを維持することで、腰への負担が軽減されます。ワシリーチェアの背もたれは体にフィットする設計になっているため、無理に姿勢を正すのではなく、自然に体を預けることで最適な姿勢が保たれます。
また、肘掛けを適切に活用することも快適さのポイントです。ワシリーチェアの肘掛けもレザーで作られており、腕の置き方に合わせてたわむ設計になっています。肘を軽く乗せることで上半身の緊張がほぐれ、よりリラックスした状態で座ることができます。
足裏については、ワシリーチェアの座面高は約43〜45cmで、平均的な身長の方であれば床につく設計となっています。足の裏が床についていることで、体のバランスが安定し長時間座っていても疲れにくくなります。
ワシリーチェアがおすすめな人

ワシリーチェアは、特定のニーズや嗜好を持つ方に特におすすめできる椅子です。以下に該当する方は、購入を検討する価値があります。
その① モダンデザインを好む人
ワシリーチェアは、バウハウス発のモダニズムデザインを代表する一脚です。「ミニマルな建築のリビングやエントランスなどの大きな開口の前に、床や壁のラインと平行に2脚きちんと並べて置いてある」というイメージが浮かぶような、建築的なデザインが特徴です。
モダンインテリアやミニマルなライフスタイルを好む方にとって、ワシリーチェアは空間の品格を高めるアイコン的存在となります。100年近い歴史を持ちながら古さを感じさせない普遍的なデザインは、時代を超えて愛される名作ならではの魅力です。
その② リラックスできるラウンジチェアを探している人
ワシリーチェアは、展覧会で「空中に浮かぶように座ることができる椅子」と解説されたことがあるように、リラックスを目的としたラウンジチェアとして設計されています。読書や音楽鑑賞、くつろぎの時間に最適な一脚です。
座面が低めで深く座れる設計のため、ゆったりとした時間を過ごしたいときに最適な環境を提供します。デスクワーク用ではなく、リビングや書斎でのリラックスタイムに使う椅子を探している方におすすめです。
その③ 長く使える一生ものの家具が欲しい人
ワシリーチェアは、適切なメンテナンスを行えば何十年も使い続けられる耐久性を持っています。「これぞ一生もの」「孫の代までリペアし続けて使いたい」という声もあるように、長期的な視点で価値ある家具を求める方に最適です。
使い込むほどにレザーが馴染み、エイジングによる風合いの変化も楽しめます。また、MoMAのパーマネントコレクションにも選ばれている美術的価値を持つ一脚でもあり、資産価値という観点でも魅力があります。
ワシリーチェアがおすすめできない人
一方で、ワシリーチェアがすべての人に適しているわけではありません。以下に該当する方は、購入前に慎重に検討することをおすすめします。
その① 長時間のデスクワークに使用したい人
ワシリーチェアはラウンジチェアとして設計されており、長時間のデスクワークには向いていません。座面の角度や背もたれの設計がリラックス向けであり、前傾姿勢での作業や長時間のパソコン作業には適していません。
デスクワーク用の椅子としては、アーロンチェアなどの人間工学に基づいて設計されたオフィスチェアの方が適しています。ワシリーチェアを使う場合は、リビングでの読書やくつろぎの時間に限定し、仕事用には別の椅子を用意することをおすすめします。
その② 身長が低い人
ワシリーチェアの座面高は約43〜45cm程度です。身長が低い方の場合、足が床につかない可能性があります。足が床につかないと体のバランスが不安定になり、快適な座り心地を得られない場合があります。
購入前には必ずショールームなどで試座し、自分の体格に合っているかを確認することが重要です。正規品の場合、青山のKnoll Japanショールームなどで実際に座って確認することができます。
その③ 予算を抑えたい人
ワシリーチェアの正規品は、Knoll社製で約57万円(税込)と高額です。決して気軽に購入できる価格帯ではなく、インテリアへの投資意識がある方向けの製品といえます。
リプロダクト品であれば6万円台から購入可能ですが、品質や耐久性、座り心地などに差がある場合があります。予算を抑えたい場合はリプロダクト品も選択肢になりますが、正規品との違いを十分に理解したうえで検討することが大切です。
ワシリーチェアのメンテナンス方法
ワシリーチェアを長く美しく使い続けるためには、適切なメンテナンスが欠かせません。レザーとスチールフレームそれぞれのお手入れ方法を理解しておきましょう。
その① レザーの日常的なお手入れ
日頃のお手入れとして、柔らかい乾いた布でから拭きをすることが基本です。ホコリを払ってからから拭きすることで、汚れを革の隙間に押し込むことを防げます。化学雑巾の使用は表面の塗装に影響を与える可能性があるため避けてください。
汚れがひどい場合は、3〜5%に薄めた中性洗剤をぬるま湯に浸した柔らかい布を固く絞り、汚れを拭き取ります。その後、水拭きで洗剤を拭き取り、乾いた布で仕上げ拭きを行います。液体をこぼした場合は、直ちに乾いた布で吸い取るように対処してください。
その② レザーの保湿ケア
革は人間の肌と同じで乾燥しやすいため、定期的な保湿ケアが重要です。乾燥してパサパサになると、表面的に修復しても長持ちしません。半年に一度程度、専用のレザープロテクションクリームで革を保湿することをおすすめします。
レザーケアの手順としては、まず汚れ落としを行い、その後保湿クリームを塗布します。汚れを落とすだけでは乾燥してひび割れの原因になり、保湿だけでは汚れが残るため、両方をセットで行うことが大切です。シンナーやベンジンなどの有機溶剤、アルコールの使用は革を傷める原因となるため避けてください。
その③ スチールフレームのメンテナンス
スチールフレームのお手入れは、基本的にから拭きまたは固く絞った雑巾で対応します。ホコリやチリの除去が目的であれば、ハンディモップでも代用可能です。強くこすらず、やさしく拭き上げるようにしましょう。
汚れがひどい場合は、中性洗剤を使用して拭き取ります。アルカリ性の洗剤は避け、スチール表面の塗装に影響が出にくい中性洗剤を選んでください。拭き取り後は、水分が残らないように乾いた布で仕上げ拭きを行うことが重要です。
軽いサビが発生した場合は、サビ取り消しゴムやクエン酸、重曹などで対処できます。ただし、サビは小さいうちに対処することが重要で、酸素・水・汚れ・塩分が付着したままにしないよう、こまめに拭き取ることが予防につながります。
ワシリーチェア購入のポイントと注意点
ワシリーチェアの購入を検討する際には、以下のポイントを押さえておくことで、後悔のない選択ができます。
その① 正規品とリプロダクトの違いを理解する
ワシリーチェアには、Knoll社が製造する正規品と、意匠権が切れた後に他メーカーが製造するリプロダクト品があります。正規品は約57万円、リプロダクト品は6万円台から購入可能と、価格に大きな差があります。
正規品の特徴として、高品質なスチールパイプと本革を使用し、精密な製造技術が施されています。リプロダクト品を選ぶ際は、スチールパイプで作られているか、口コミ評価は良いか、販売メーカーの信頼性はあるかといった点を確認することが重要です。
リプロダクト品の中には品質が悪いものも存在し、フレームの塗装剥がれや座り心地の悪さ、耐久性の問題が報告されているケースもあります。コスパを重視するか品質を重視するかを明確にし、自分に合った選択をしましょう。
その② 張り地の素材を確認する
ワシリーチェアの張り地には、主にレザー(本革)とファブリック(布)があります。現行のKnoll正規品では、カウハイドレザーやサドルレザーなど、複数のレザーオプションが用意されています。
レザーの質感によって座り心地や経年変化の風合いが異なります。ベルトレザーのような光沢感のあるハードな質感のものから、マット目でソフトな肌馴染みの良いものまで様々です。可能であれば実物を確認し、好みの質感や色合いを選ぶことをおすすめします。
新色のコニャックやダークグリーンなど、クラシックなブラック以外のカラーオプションも登場しています。インテリアとの調和を考えながら選択しましょう。
その③ 設置スペースと搬入経路を確認する
ワシリーチェアのサイズは、一般的に幅約79cm、奥行約66〜70cm、高さ約73〜80cm程度です。設置予定の場所に十分なスペースがあるかを事前に確認しましょう。
また、搬入経路の確認も重要です。玄関や廊下、部屋のドアを通過できるか、階段やエレベーターでの搬入が可能かを確認してください。正規品の場合、納期が3.5〜5ヶ月かかることもあるため、購入前に十分な計画を立てることが大切です。
ワシリーチェアは存在感のある家具であり、リビングや書斎のフォーカルポイントとして配置するのが効果的です。窓辺や壁面に沿って配置することで、空間全体のデザイン性を高めることができます。
まとめ
ワシリーチェアは、1925年にマルセル・ブロイヤーによってデザインされた世界初のスチールパイプ椅子であり、約100年の歴史を持つ不朽の名作です。レザーの弾性による包み込まれるような感覚、精密に設計されたスチールパイプフレーム、線と面だけで構成されたシンプルな構造により、「宙に浮いているような快適さ」という独特の座り心地を実現しています。
正しい座り方としては、座面に深く腰掛け、骨盤を立てた状態で自然に体を預けることがポイントです。モダンデザインを好む方、リラックスできるラウンジチェアを探している方、一生ものの家具が欲しい方には特におすすめできますが、長時間のデスクワーク用途や身長が低い方、予算を抑えたい方には他の選択肢を検討することも必要です。
購入時には、正規品とリプロダクトの違い、張り地の素材、設置スペースと搬入経路を十分に確認してください。また、レザーの日常的なお手入れと保湿ケア、スチールフレームのメンテナンスを定期的に行うことで、何十年も美しく使い続けることができます。時代を超えて愛される名作チェアで、あなたのインテリアライフをより豊かなものにしてください。