卵の殻のようなそのユニークなフォルムから「エッグチェア」と名付けられたこの椅子は、1958年に建築家アルネ・ヤコブセンによってコペンハーゲンのSASロイヤルホテル用にデザインされた北欧家具の代表作です。
その洗練された美しさと座り心地の良さから、現在でも世界中の高級ホテルや家庭で愛され続けています。
しかし、このような人気の高い名作家具だからこそ、市場には多くのリプロダクト品や偽造品が出回っています。
本記事では、正規品と偽物を見分けるための具体的な方法と、購入時の重要な注意点について詳しく解説します。
エッグチェアとは

エッグチェアは、デンマークの家具ブランド「フリッツ・ハンセン」が製造する高級ラウンジチェアで、その最大の特徴は卵をくり抜いたような有機的で立体的なフォルムにあります。デザインを手がけたアルネ・ヤコブセンは、彫刻家のように粘土で試作を何度も繰り返し、完璧な曲線の形を追求しました。このこだわりは製造工程にも表れており、職人が手作業で張り込みを行い、ステッチの数まで細かく決められています。
エッグチェアの最大の魅力は、そのフォルムが生み出す機能性にあります。左右のウイングが視線から周囲の空間を遮り、身体を完全に包み込むような安心感を提供します。背もたれのカーブも絶妙に角度が計算されており、リラックスして座ることができます。
正規品には回転とチルト(ロッキング)機能が搭載されており、座る人の体重に合わせて調整が可能です。材質はシェル部分に硬質発泡ポリウレタンが使用され、その上に高級な布地または本革が張られています。アルミニウムまたはスチールの脚部は、スターベースと呼ばれる星型の形状が特徴的で、360度回転機能を備えています。
偽物のエッグチェアは存在する?
エッグチェアの市場には、大きく分けて3つのカテゴリーの商品が存在します。第1に正規品であるフリッツ・ハンセン製品、第2に合法的なリプロダクト品、そして第3に不正なコピー製品です。
リプロダクト品は、元々のデザインの意匠権が切れた製品を新たに製造・販売するもので、完全に合法です。アルネ・ヤコブセンがデザインした製品には意匠権があり、日本国内では登録設定から20年間の保護期間がありました。したがって、意匠権の期間終了後は、複数のメーカーが法的に問題なく類似デザインの製品を製造・販売できるようになりました。リプロダクト品は通常5万円から30万円の価格帯で販売されており、正規品の1/5から1/10程度の値段です。
一方、不正なコピー製品は、フリッツ・ハンセンの商標や製造技術を無断でコピーして製造・販売されるもので、これは違法です。フリッツ・ハンセン社は意匠権侵害に対して法的措置を取る方針を明確にしており、偽造品の製造と流通を厳しく監視しています。これらの違法なコピー製品と、合法的なリプロダクト品を区別することが購入時の重要なポイントとなります。
エッグチェアの本物を見分ける方法

エッグチェアの正規品と偽物を見分けることは、思った以上に簡単です。フリッツ・ハンセン社が正規品の証明となる複数の識別方法を導入しているため、具体的なポイントを押さえておけば、ほぼ確実に本物かどうかの判定が可能です。ここからは3つの重要な見分け方について詳しく説明します。
その①:タグ・ラベルの確認
正規品のエッグチェアを見分ける最も確実な方法が、タグ・ラベルの確認です。フリッツ・ハンセンは2006年以降に生産された張り込みタイプの製品に、識別用のラベルを付けています。このラベルは製品の座面裏やクッション裏に縫い付けられており、明確な証となります。
2010年までに製造されたものには赤いタグが、2011年から2019年までに製造されたものにはダークブラウンのタグが、2020年以降に製造されたものには黒と白で最新のロゴが記されたタグが付けられています。このタグには、製造年、デザイナー名「Arne Jacobsen」、製造国(通常はポーランド)、固有のIDナンバーが明記されています。さらに、フリッツ・ハンセン社では防偽対策として、特殊な糸を織り込んだラベルを張り込みタイプの製品に付けており、この糸はフリッツ・ハンセンが保有する特別な器具でのみ確認することができます。
リプロダクト品にはこのタグが付いていないか、「MADE IN CHINA」のみの単純な表記であることが多いのに対し、正規品には必ずこれらの詳細情報が記載されたタグが存在します。座面裏やクッション部分を確認する際には、タグの有無だけでなく、印字の品質、使用されている糸の仕上がり、ラベルの取り付け方まで細かくチェックすることが重要です。偽造品のタグは印字がかすれていたり、素材の質が劣っていたり、雑に縫い付けられていることが多いため、正規品との違いを識別することは十分可能です。
その②:ベース・脚部の刻印確認
正規品のエッグチェアの見分け方として、アルミニウムまたはスチール製の脚部への刻印確認も重要なポイントです。フリッツ・ハンセン製の正規品には、ベースとなるスターベースの部分に「Fritz Hansen」の企業ロゴやシリアルナンバー、製造年が刻印されていることが多いです。この刻印は製造工程で直接金属に打ち込まれており、その仕上がりは非常に精密です。
偽造品やリプロダクト品の場合、このような刻印が施されていないか、刻印があっても「MADE IN CHINA」といった最小限の情報のみが記されていることが一般的です。さらに重要な点として、正規品の脚部ジョイント部分は径が大きく、なだらかな突起状になっているのに対し、偽造品は径が小さく、目立つ突起となっています。正規品のボルトは特殊な形状で容易には外せない設計になっていますが、偽造品は普通の六角レンチで簡単に取り外せるという特徴があります。
脚部の検査を行う際は、ベース全体のシルエットも注意深く確認することが重要です。正規品のスターベースは左右のアームとの接続部分が緻密に計算されており、全体的に洗練された印象を与えます。一方、リプロダクト品やコピー製品は、この接続部分の仕上がりが雑であることが多く、見た目の質感に大きな差が生じます。特に年代モデルによっては、ベースの形状自体が異なる場合もあるため、複数の角度から脚部全体を観察することが効果的です。
その③:シェルの曲線・質感・仕上がり
エッグチェアの最大の特徴である卵型のシェル部分の曲線美を検査することも、本物を見分ける重要な要素です。アルネ・ヤコブセンが彫刻家のように創り出したエッグチェアのシェルは、あらゆる角度から見ても完璧な曲線を保つように設計されています。正規品のシェルは硬質発泡ポリウレタンを使用しており、照明が当たった時の陰まで美しい曲線を描きます。
リプロダクト品の場合、シェルに使用される素材がABS樹脂やポリプロピレン(PP)など、異なる材質であることが多いため、曲線の美しさが劣ります。特に脇の部分や背もたれの上部における曲線が、正規品では自然で流線型であるのに対し、リプロダクト品では歪んで見えることがあります。光が当たった時の影の出方で、この違いが顕著に表れます。
さらに、シェル表面の質感も重要な判別ポイントです。正規品は高級な布地または本革が丁寧に張り込まれており、縫製も非常に精密です。特にステッチの位置や密度、張地の張りの具合が均一に仕上げられています。正規品のレザータイプは、イタリア製の高級本革が使用されており、触った時の質感が明らかに異なります。一方、リプロダクト品や偽造品は、人工皮革や低品質のポリ塩化ビニル(PVC)素材を使用していることが多く、手で触るとすぐに違いが分かります。
座面下やシェルの内側にある縫製部分も確認の対象です。正規品の内側の縫製は、選ばれた職人のみが行うため、非常に丁寧で密度の高いステッチが見られます。一方、偽造品やコストを削減したリプロダクト品は、ステッチが粗く、不規則であることが多いです。また、正規品はシェル全体にわたって厚み感があり、手で持った時の重量感も異なります。正規品の総重量は約20キログラムであり、この重さが構造の質実さを物語っています。
エッグチェア購入時のポイント・注意点

正規品のエッグチェアを購入する際には、単に本物か偽物かを見分けるだけでなく、購入先の選定や価格の検討、アフターサービスの確認など、複数の重要なポイントがあります。以下で詳しく説明します。
その①:正規販売店での購入
エッグチェアの本物を確実に入手するための最も安全な方法は、フリッツ・ハンセンの公式正規販売店での購入です。フリッツ・ハンセン社は、公式ウェブサイト上で認定された正規販売店の一覧を公開しており、これらの店舗で購入することにより、製品の真正性が保証されます。
日本ではアクタス、ディノス、リパブリックなどの主要家具販売店や、フリッツ・ハンセンジャパンが直営する東京の「FRITZ HANSEN TOKYO」といった店舗で購入できます。正規販売店から購入する最大のメリットは、充実したアフターサービスと製品保証が付属する点です。フリッツ・ハンセン製品には通常5年間の保証が付き、2023年11月以降、エッグチェアを含む特定製品は10年保証が適用されるようになりました。さらに、延長保証登録をすることで最大10年の延長保証の対象となり、レザーやベース、シェルなどの特定部材に関する不具合があった場合は、部品交換または製品交換の対応を受けることができます。
オンラインでの購入を考えている場合も、販売業者がフリッツ・ハンセンの公式認定店であるかを確認することが必須です。確認方法としては、フリッツ・ハンセンの公式ウェブサイトの「Where to buy」セクションで正規販売店情報を検索するか、直接メールで問い合わせることが推奨されます。
その②:価格相場の理解と適正価格の確認
エッグチェアの正規品の価格帯を理解することも、購入時の重要な判断基準となります。フリッツ・ハンセン製のエッグチェアは、張地の種類と仕上げ方法により価格が異なり、一般的には116万円から200万円程度の価格帯です。具体的には、ファブリック(布地)タイプで約116万円から135万円程度、本革タイプで約130万円から200万円程度となります。
市場でこれより大幅に安い価格で販売されている商品は、リプロダクト品または偽造品である可能性が高いため注意が必要です。例えば、50万円以下の価格で「正規品」と謳われている商品は、ほぼ確実に違法なコピー製品であると判断して問題ありません。一方、リプロダクト品は正規品の1/5から1/10の価格(約10万円から30万円)で販売されており、この価格帯であれば合法的なリプロダクト品であると認識できます。
重要なのは、著しく安い価格と正規品という表示に矛盾を感じた場合、その販売業者の信頼性を徹底的に調査することです。販売業者のウェブサイトの構成が粗悪であったり、特商法に基づく表示が不完全であったり、返品・返金ポリシーが不明確である場合は、詐欺的な商人である可能性が高くなります。
その③:購入前の現物確認と購入後の保証登録
可能であれば、購入前に実際の製品を見て座ってみることが最良の方法です。フリッツ・ハンセン直営店やショールームを備えた正規販売店では、複数の張地カラーを揃えた実物展示品が用意されており、実際に座って座り心地を確認することができます。座った時に身体がどのように支えられるか、背もたれのカーブが自分の体形に合致するか、そしてシェルの質感が理想的なものであるかを確認することで、購入後の満足度が大きく向上します。
また、関東地方に住んでいる場合は、フリッツ・ハンセン公式の東京直営店「FRITZ HANSEN TOKYO」を訪問することが推奨されます。同店は東京都港区南青山に位置し、営業時間は11:00から19:00です。複数のモデルが展示されており、スタッフによる詳細な説明も受けられます。
購入後に忘れてはいけないのが、My FRITZ HANSEN での製品登録と延長保証の登録手続きです。これらの登録は購入後3ヶ月以内に完了する必要があり、登録することにより、延長保証が有効化されます。登録に必要なのは、製品に記載されたシリアル番号と購入時の領収書です。万が一製品に不具合が生じた場合は、この登録情報に基づいて保証対応が行われるため、登録手続きを決して怠らないことが重要です。
まとめ
エッグチェアは、その卵型の洗練されたデザインと優れた座り心地により、世界中で愛されている北欧家具の傑作です。しかし、その高い人気と高額な定価から、市場にはリプロダクト品や違法なコピー製品が多く流通しています。
正規品を見分けるための最も確実な方法は、座面裏やクッション裏に付けられた赤色、ダークブラウン、または黒と白の公式タグの有無を確認することです。加えて、ベース部分への刻印、シェルの曲線美と質感、内部の縫製の精密さを詳細にチェックすることで、本物か偽物かを判定することができます。
購入の際は、必ずフリッツ・ハンセンの公式正規販売店から購入し、116万円以上の適正価格であることを確認してください。価格が大幅に安い場合はリプロダクト品または違法なコピー製品である可能性が高くなります。購入後は、速やかにMy FRITZ HANSEN での製品登録と延長保証登録を完了し、長期的なアフターサービスの恩恵を受けるようにしましょう。
これらのポイントを押さえておけば、高額な投資であるエッグチェアの購入時に、詐欺や粗悪品の購入を確実に避けることができます。真のアルネ・ヤコブセン設計のエッグチェアを手に入れることで、あなたのライフスタイルに上質で洗練された時間がもたらされることでしょう。